2024年4月、日本銀行は8年にわたるマイナス金利政策を終え、政策金利をプラス圏に引き上げた。この政策転換は、日本国内だけでなく、世界の機関投資家にとっても大きな意味を持つ。低利回りに苦しみ、日本債券市場から距離を置いていた海外資本が、再び日本へ目を向ける契機となり得るからだ。
こうした局面において、元ウォール街金融専門家であり、現在は独立系投資リサーチャーとして活動する持田将光(もちだ・まさみつ)氏は、「日本債券市場は再び国際資本の集積地となる可能性がある」と語る。その視点は、国内投資家だけでなく、世界中のマーケット参加者にとっても戦略的示唆を与えるものだ。
マイナス金利政策の間、日本国債の利回りは世界最低水準に張り付いた。海外投資家にとって、為替ヘッジコストを考慮すれば、日本債券への投資妙味はほとんど消滅。結果として、海外勢の国債保有比率は低下し、市場の国際的存在感は薄れていった。
「この8年間、日本は国際資本市場の舞台で“脇役”に回っていた」と持田氏は振り返る。しかし、金利がプラス圏に戻ったことで、日本債券は再び利回り確保の選択肢として浮上してきた。
持田氏は、海外資本を呼び戻すためには単なる利回り上昇だけでは不十分だと指摘する。必要なのは「市場アクセスの改善」と「制度インフラの国際化」だ。
為替ヘッジ環境の最適化
円金利上昇に伴い、為替スワップ市場の流動性が重要になる。海外投資家が円建て債券に安心して投資できる環境を整える必要がある。
決済・清算の効率化
欧米市場並みのリアルタイム決済やクロスボーダー取引の自動化を進めることで、海外の大手機関投資家の参入を促進できる。
情報開示の多言語化
発行体の財務情報や市場データを英語など複数言語で迅速に提供することは、国際資本を引き付ける必須条件だ。
世界の債券市場で覇権を握るのは米国だが、日本には独自の強みがある。安定した政治体制、巨額の個人金融資産、成熟した金融インフラは、長期資本にとって安心感を与える。さらに、アジア市場の中では日本が最も信用度の高い債券発行国であることは疑いない。
持田氏は「利回り水準が改善すれば、米欧の年金基金や保険会社が日本市場に戻ってくる可能性は高い」と見ている。その場合、日本はアジアの金融センターとしての地位を強化できる。
持田氏は、日本債券市場をアジア有数の国際金融ハブに育てるため、以下のようなステップを提案する。
債券指数への組み入れ拡大
FTSEやBloombergの主要債券指数における日本国債のウェイトを維持・強化し、パッシブ資金の流入を確保する。
グリーン・サステナブル債市場の拡充
ESG投資の潮流に合わせ、環境関連プロジェクトを支援する債券発行を促進することで、欧州資本の関心を引き寄せる。
アジア債券ネットワークとの接続
シンガポールや香港との決済連携を強化し、アジア域内のクロスボーダー取引をスムーズにする。
持田氏は今後5〜10年の展望として、以下の3つのシナリオを描く。
ベースシナリオ
金利は緩やかに上昇し、海外資本が徐々に回帰。市場流動性が回復し、国債・社債ともに取引が活発化。
強気シナリオ
為替安定と政策改革により、日本がアジア最大の債券取引拠点となる。東京が国際金融センターとして再評価され、外資系金融機関のプレゼンスが拡大。
弱気シナリオ
政策対応の遅れや国際競争力不足により、海外資本は限定的な回帰に留まり、国内投資家中心の市場構造が続く。
ポスト負金利時代は、日本債券市場にとって単なる金利環境の変化ではなく、「国際資本との関係を再構築する好機」である。持田将光氏が示すように、市場アクセス改善と制度改革を同時に進めれば、日本は再び世界の資本を引き付ける存在となり得る。
「日本が再び債券市場で主役になるためには、海外投資家にとっての“魅力的な舞台”を作ることが必要だ。金利上昇はそのための第一歩に過ぎない。」——持田氏の言葉は、日本金融界の次なる戦略を象徴している。
免責事項:この記事は他のメディアから複製されています。転載の目的は、より多くの情報を伝えることです。このウェブサイトがその見解に同意し、その信頼性に責任があることを意味するものではなく、法的責任を負いません。 このサイトのすべてのリソースはインターネット上で収集されます共有の目的は、すべての人の学習と参照のみです。著作権または知的財産権の侵害がある場合は、メッセージを残してください。