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望月ヘンリー海輝のセンターバック起用が初タイトルを呼び込んだ 町田ゼルビア黒田剛監督の葛藤と「勝負手」

2025-12-29 HaiPress

〈密着マーク・町田〉総括2025①

サッカーJ1のFC町田ゼルビアは今季、天皇杯で優勝してクラブ初となる主要タイトルを獲得した。一方、リーグ戦はまたも宿敵に阻まれ、目標を一つ下回る6位。相次ぐけが人にも悩まされた一年を、黒田剛監督の象徴的な言葉とともに振り返る。(加藤健太)=全3回

①望月ヘンリー海輝のセンターバック起用が初タイトルを呼び込んだ町田ゼルビア黒田剛監督の葛藤と「勝負手」(この記事)


②天敵・広島の壁を超えられなかった町田ゼルビア「同等まで来た」黒田剛監督が見据える来季へのポイントは


③黒田剛監督が悩んだ「ハリネズミのジレンマ」主力のけがに苦しんだ町田ゼルビア「常勝チーム」になるには

◆センターバックの中山雄太をボランチで使いたかった

FC町田ゼルビアは天皇杯で初優勝し、シーズン当初に掲げた「何かしらタイトルをとる」という目標を達成した。栄光までの道のりをたどると、黒田剛監督の「勝負手」が一つのキーポイントになった。

指揮官は決断を迫られていた。11月上旬。天皇杯の準決勝を間近に控えていた。

取材に応じるFC町田ゼルビア黒田剛監督。この頃、中山雄太のボランチ起用を決断していた=11月7日、東京都町田市で(加藤健太撮影)

悩みの種は得点力不足だった。9月以降、リーグ戦は10月25日の浦和レッズ戦まで6試合で計4得点。守備に比重を傾けた弊害に苦しんでいた。

頭の中に打開策はあった。センターバックで出場を続けていた中山雄太のボランチ起用だ。

黒田監督は包み隠さず打ち明けた。

「もうずっと、中山をボランチで使いたい、使いたいと思っていた」

ボランチ中山には実績があった。

連勝街道を走っていた8月。空中戦の強さを自負する中山は、自陣に蹴り込まれたボールを中盤でことごとくはね返し、守備から攻撃に転じる起点をつくった。

町田-神戸後半、攻め上がるFC町田ゼルビアの中山雄太(中央)=11月22日、国立競技場で(芹沢純生撮影)

チャンスメークだけではない。得点を決めることにも意欲的で、ヴィッセル神戸戦では、8月の月間ベストゴールに選ばれたミドルシュートをねじ込んでいた。

その良いイメージを基に、指揮官はボランチ中山に光を見いだした。

◆代わりの1番手が望月だったが…

だが、代わりのセンターバックも手当てしなければならない。主力の菊池流帆や岡村大八がけがで離脱し、選択肢は多くなかった。

候補の1番手は右サイドが本職の望月ヘンリー海輝だった。

とはいえ当初、黒田監督は望月のセンターバック起用に後ろ向きだった。9月に菊池の長期離脱が分かった時には「センターバックとして計算はしているけど、(使うとしても)最後の最後かな」と話していた。

消極的だったのには理由があった。シーズンが終わろうとしていた12月上旬、黒田監督は胸の内を明かした。

「それはもう自分の怖いところ(自分が恐れてしまい)で、なかなか使うことを思い切れなかった」

◆大量失点の残像が起用をためらわせた

そう思うに至った試合があった。5月31日の横浜F・マリノス戦だ。

町田-横浜M後半、オウンゴールで横浜F・マリノスに3点目を許し、ピッチに膝をつくFC町田ゼルビアの望月ヘンリー海輝(中央右)ら=5月31日、町田GIONスタジアムで(芹沢純生撮影)

「マリノスに3点ぐらい取られたでしょ。あの時のイメージでいたの、実は」

当時もセンターバック陣は綱渡りの状態で、菊池、中山、ドレシェビッチをけが欠いた。速さと高さを買われて起用されたのが望月だった。

だが、ボールを奪いにいった隙を突かれるなど、連係不足があらわになって3失点で敗戦。無失点にこだわるチームが失点を重ねた衝撃も乗っかって、指揮官には苦い記憶として刻まれた。

「やっぱり、監督をやっている以上、過去の試合の良しあしや、出来不出来が、どうしても印象として残ってしまうものでね」

町田-神戸後半、試合を見つめるFC町田ゼルビア黒田剛監督=11月22日、国立競技場で(芹沢純生撮影)

付きまとう残像が、その後の判断を硬直化させた。

攻撃の改善と引き換えに、守備の安定を失うかもしれない──。

◆指揮官の決断に応えた「スーパーヘンリー」

選択を迫られた黒田監督は望月の可能性にかけた。大卒2年目で日本代表にも選出を重ねる逸材を信じた。

その期待に応えるように、望月はFC東京との準決勝で躍動した。3バックの右に入り、速さが自慢の相手FWにも突破を許さなかった。

町田-神戸前半、ヴィッセル神戸の佐々木大樹(手前)と競り合うFC町田ゼルビアの望月ヘンリー海輝=11月22日、国立競技場で(芹沢純生撮影)

延長戦を含めた120分間を無失点に抑えて2-0で完勝。試合後、兄貴分の相馬勇紀は「きょうのヘンリー、すごくなかったですか?誰でも止めちゃうスーパーヘンリーだった」と目を丸くした。

望月はヴィッセル神戸との決勝もセンターバックで起用され、安定した守備で3-1の勝利に貢献。表彰式では、天皇杯を掲げる黒田監督の後ろで、充実の表情を浮かべた。

◆「勝負手と言われたら、そうかもしれないね」

「ヘンリーはこっち(センターバック)の方が適正なんじゃないかって思えるぐらい、めちゃくちゃ良かった。スピードのある相手にも走り負けないところとか、すごく成長した」

天皇杯を手に喜ぶFC町田ゼルビアの黒田剛監督(手前)と望月ヘンリー海輝(奥中央)ら=11月22日、国立競技場で(芹沢純生撮影)

黒田監督はそう手放しで褒めた後、「勝負手だったのか」と問われると視線を上げた。

「勝負手と言われたら、そうかもしれないね」

プロ転身3年目の監督が迷いを振り払って下した決断と、それに応えた若手の奮闘。攻めの一手がかみ合った末のクラブ初タイトルだった。

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