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当たり前の日常がこれほどにいとおしいと知る「小林徳三郎」

2025-12-02 HaiPress

「金魚を見る子供」(1928年、東京国立近代美術館蔵)。息子の輝之助が近所で金魚をもらってきた。鉢で泳ぐ姿を飽きることなく眺めている。小林徳三郎にとって転換期の代表作。長く行方が知れなかったものだ。

知らなかった作家なんだけど、


チラシを見たらとても素敵!


どんな人なのかしら?

日本近代洋画の改革期に活躍した、この画家の名を知らない人は多いだろう。けれども、一度観たらきっと、その印象は長く深く心に根付く。画家仲間から「もっと評価されるべき画家」と言われた小林徳三郎(1884~1949)。没後初となる大回顧展だ。


金魚鉢を見つめる少年の絵には注目必須

チラシやポスターに使われている作品では、少年が鉢の中の金魚をじっと見つめている。金魚の姿や少年の目元などはかなりサラッと描かれているようだ。“雑なの?”とすら感じるような。けれどもなんだかしみじみしてしまう。ああ、こういうシーンを目にしたことがあるはずだ、と感じる。それは自分の息子や親戚の子だったかもしれないし、あるいは幼い日の自分自身の姿かもしれない。

そしてよく観れば、鉢の水は豊かに輝き、その光は少年の額に映る。絶妙なポーズ、背景や鉢が置かれた台の色彩など、この作がいかに繊細に構成されたものかがわかってくる。


ながらく行方が不明だった作品だというが、今回の展覧会に向けた調査の中で発見されたという。ほかにも新たに確認された作品や資料は多々だ。


それらを含む約300点の作品と資料によって、小林徳三郎の画業の展開を追うのが、本展の主旨となっている。


小林徳三郎は1884年、現在の広島県福山市で生まれた。瀬戸内の城下町だ。画業を志したきっかけはわからないが、20歳で東京藝術大学の前身である東京美術学校の西洋画科に進み、多くの仲間とともに研鑽を重ねた。学校ではその後洋画家として活躍する山脇信徳、近藤浩一路、九里四郞らと親しく交流した。卒業後は、先駆的青年画家らで「フュウザン会」を結成して、そこで高村光太郎や生涯の友となる萬鉄五郎とも出会っている。


新しい芸術をめざす若者たちの多くが、ヨーロッパにおける後期印象派の影響を強く受けた時代だ。けれど現物はおろかカラー写真で見ることもかなわない。彼らはゴッホやゴーガン、マティス、セザンヌ、ロートレックなどの作品をモノクロの紹介冊子で見て、学び、模倣し、表現を模索した。小林徳三郎もまた、最初はそんなひとりだった。

演劇などでのデザイナーとして活躍した時期も発掘

展示の第1章は、若き日の諸作品から小林徳三郎のルーツを探る。

1914年に建造された重要文化財の駅舎を活用した東京ステーションギャラリー。内部の赤れんがの構造と、徳三郎の作品が、どこか懐かしく呼応する。

卒業制作の自画像やその後の作品、デッサンなどからは、じつに真面目な人だったのだとわかる。どれもとてもていねいだ。同じモチーフを何度もデッサンして作品に仕上げている。人物では従妹の政子もモデルを務めている。やがて妻になる人だ。その約束のもとで徳三郎の住む東京に行き、毎夜、長時間にわたって静止し続けたらしい。ロートレックやゴーガンの影響を感じる作品には、熱い時代の息吹をも感じる。

「港の見える風景」(1915年)は、31歳の頃の作。郷里の広島に家族で住んでいた頃か。同じテーマのスケッチや画稿も複数残っている。

「フュウザン会」による展覧会は1912年に第1回が開催され、小林徳三郎の作も注目されたが、血気盛んな若者らの意見の衝突もあり、第2回の開催後に解散。しかし徳三郎は家族を養わなければならない。そこで仲間の紹介もあって飛び込んだのが、第2章で展開されている、大正期の大衆文化の中での仕事だ。

(上)島村抱月が主宰する芸術座で、徳三郎は舞台装飾主任を務めていた。これはイプセン原作で1914年に公演した『海の夫人』舞台装置のための模型。主演は松井須磨子。(下)1917年からは学校で図画を教えつつ、子ども向け印刷物の仕事を多く手がけた。「モクバクアン」と題した図案も、印刷に至る前、何枚も画稿を描いて推敲している。

この展示がまた楽しい。かの時代の演劇や雑誌の面白さがわかる。並ぶのはいかにもな“作品”的な絵画ではなく、当時の記録。劇団『芸術座』の看板女優・松井須磨子は徳三郎の支援者でもあった。舞台の装飾、衣裳、宣伝チラシや冊子表紙などさまざまなデザインを徳三郎が手がけた。そうした品々や、公演の写真、またデザイン決定に至るまでの数多くのスケッチなど見比べるのが楽しい。これらは本展に向けて、徳三郎の遺族が大切に保管してきた下絵などの断片と、今に残る公演写真、チラシなどの演劇系資料を突き合せて精査する中で、本人が手がけたとわかったものが多数だ。ここまで調べた人々の尽力に感嘆せざるを得ない。

さらに婦人雑誌の表紙絵、子ども向け印刷物の絵などもいくつもある。どれも何度も下絵を繰り返して練り上げてある。徳三郎が本当に描きたかったはずの絵とは違うはずなのに、仕事として受けた以上は、自身が納得いくまでやる人だったのだ……。

家族との日常の中に見出されたテーマ

ある時期、わが家での食材として買ったイワシをはじめアジ、ニシンなどの魚ばかり描き、“イワシの徳さん”と呼ばれた。これは1925年頃に制作された「鰯」(碧南市藤井達吉現代美術館蔵)。

第3章からは徳三郎らしさがはじまる。大正時代末期からだ。

何がきっかけかは知る由もないのだが、徳三郎は目の前の“日常”を描くようになった。まず、イワシを描いた。それも何度も。ゴッホの静物画にインスパイアされたとの指摘もあるが。“イワシの徳さん”とも呼ばれたそうだが、イワシだけでなく鯛やアジも描き続けた。そしてある時、飽きたのか(?)、家族を描くようになった。

モデルのようにポーズを取るわけもない。家族だからこそ力の抜けた姿がある。その面白さに気づいたのだ。たぶん徳三郎にとって、描くこと自体が日々、当たり前に重ねていく日常となっていたのではないか。金魚を見つめる長男、縁側でだらっと寝転ぶ次男などの絵も生まれていく。表現も、かつての緻密さを離れ、力の抜けたような融通無碍なものになっていき、肺炎による療養後の作ではさらに粗いというか、人物の顔すら、子どものお絵かき風になっていく。

中学生になった輝之助が花瓶の花を見つめる「花と少年」(1931年、ふくやま美術館蔵)。花を描くには成熟が必要だと述べていた徳三郎だったが、この頃から果敢に挑戦している。黄色と青の色彩のバランスも巧みだ。

だがしかし、そういう作風かとあなどってはいけないのだ。

展示では完成した作品に、スケッチや“画稿”と書かれたものも多数並べられている。油彩画の前の、ペンや墨によるいくつものデッサン、彩色した精緻な水彩の画稿。それらを経てこそ、肩の力も抜けたいかにもラクに描いたかのように見える作品に至るのだとわかる。その姿勢は美術を学んだ学生時代から変わらないまま。画業に真摯に向き合うかたくなさであり真面目さなのだ。

“詩のような日常”が現代の私たちに響く

真面目さといえば、途中、日本画の展示もある。ひととき集中して墨で描いた時期もあったらしい。鳥の羽の表現などじつに緻密だ。

おそらく沼津市の江の浦を描いた「海」(1942年)。徳三郎没後の1952年、国立近代美術館が開館。翌年5月にこの作を文化省が買い上げ、同館の洋画部門第1号として収蔵された。

技術を磨くために自分にできることをなんでもやってみようとした人だ。その蓄積が、我々の心を打つ、ゆるりとした“日常”の表現へと行き着く。

晩年までずっと描き続けた。東京国立近代美術館の洋画収蔵第1号となった1942年の作《海》も本展第4章で観られる。さらに箱根で打ち込んだ渓流、亡くなった地である豊島区の家の近隣風景なども、幾度となく描き続けた。

“デッサンの名手”と言われた人だ。生前も、美術学校の後輩らがデッサンよりも表現を重視することを憂いていたという。

見ること、描くことの積み重ねの尊さを思う。それが、表現の自由に至るのだ。

彼が至ったのは、いかにもなアカデミックな表現でも、時代の流れと共に過去となる前衛的表現でもない。だからこそ時を超えて響く。展覧会コピーにある「詩のような日常宇宙」の言葉通りだ。

展示の終盤には、妻の政子を描いたスケッチも数点ある。展示の最初では10代前半だった妻は老いている。寄り添い続けた日々もまた胸に温かく染みる。


なんだかとても幸せな気分になりました。


徳三郎さんのスケッチや日記も


微笑ましくて……ウフフ

小林徳三郎


11/22(土)〜2026年1/18 (日)


東京ステーションギャラリー


東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)


開館時間:10:00~18:00(金曜日~20:00)※入館は閉館30分前まで


休館日:月曜日(ただし11/24、1/12は開館)、11/25(火)、年末年始(12/29~1/2)


入館料:一般1,300円、高校・大学生1,100円、中学生以下無料


問合せ:03-3212-2485


https://www.ejrcf.or.jp/gallery/


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