私ごとで恐縮ですが、今年の8月に芸能生活30周年を迎えました。将来、どのような仕事に就くかを考え、音楽と悩んだ末にお笑いの道を選んだ高校2年の私は、すぐに活動を始めるのではなく、20歳になったらと、きっちり8月19日の誕生日に芸能界の門を叩きました。
「お笑いをやりたいんですけど」
「毎月ネタ見せっていうのやってるから、それにおいで」
タイミングにこだわったのは、長く続ける覚悟の表れで、どれくらい経過しただろうかと、いつでも初心に帰れるから。そうして気がつけば30年。時代の荒波にもまれながら、たくさんの人に支えられ、なんとかここまで辿り着きました。
芸歴30年の50歳なんて言ったら、かつては「大御所」の類だったかもしれませんが、まだまだ中堅。もうひと山、ふた山、越えなければならないでしょう。昭和の映画俳優のようにクラブで豪遊するタイプでもないですが、そろそろ世帯を持ち、銀座に馴染みの店のひとつやふたつあってもいいものですが、今のところ、どうやらこの先も「銀座」と繋がる機会は期待できそうにありません。
以前、番組のロケで訪れた、雑居ビルに構える小さな天ぷら屋。カウンターの向こうからやってきた海老天に度肝を抜かれました。これが「銀座」か。いったいこの海老天一本でいくらするのか分かりませんが、宝石のように輝いていました。
銀座の貫禄。銀座は銀座でも、私は戸越銀座の方が身の丈に合っているかもしれません。ちなみに、商店街などに「銀座」が付くのは、戦後に銀座からレンガを譲り受けたことや、銀座のような繁栄を願うことに由来するのだそう。いまや、全国に数百ある「〇〇銀座」の元祖が戸越銀座と言われますが、もはや「銀座」は地名を越え、まるで「銀河」のように一般名詞化され、「豊かさ」を象徴する言葉になりました。
また、銀座をぶらぶらする「銀ぶら」は、大正時代からの俗語で、その当時は、伊東屋や松屋銀座のある東側ではなく、西側を歩くのが粋とされたようです。その賑わいは凄まじいもので、人口の推移を鑑みれば、今の渋谷・新宿に相当するのでしょう。
数寄屋橋や京橋など、銀座界隈は「橋」のつく地名が多いように、もともと川の上に暗渠を築いてできた地域。暗渠の町といってもいいかもしれません。だからこそ、水に強い柳が植えられ、銀座を彩っていました。
「一緒にお笑いライブをやろう」
名もなき若手芸人らがファミレスに集まりました。私と二組のコンビ、合わせて5人で集団コントのライブをやろうというもの。事務所が主催するお笑いライブに不満があったわけでもないのですが、自分たちの世界を作りたいと。クソ生意気もいいところです。世界観なんて口にする実績もないのに、自信だけはある。当時の生意気さを証明するエピソードとして、こんなこともありました。
次回は、9月25日(水)10時公開予定です。
連載「東京23区物語」は、フィクションとノンフィクションが交錯する、23個のストーリー。ふかわりょうさんの紡ぐ、独特な世界をお楽しみください。記事一覧はこちら
ふかわりょう
1974年8月19日生まれ。神奈川県出身。
長髪に白いヘア・ターバンを装着し、「小心者克服講座」でブレイク。「あるあるネタ」の礎となる。現在はテレビ・ラジオのほか、執筆・DJなど、ただ、好きなことを続ける、50歳。
3月に小説『いいひと、辞めました』(新潮社)を刊行。その他の著書に『スマホを置いて旅をしたら』(大和書房)、『ひとりで生きると決めたんだ』(新潮社)、『世の中と足並みがそろわない』(新潮社)などがある。
レギュラー
TOKYO MX「バラいろダンディ」毎週月曜~木曜21:00~21:54
Fm yokohama「ロケットマンショー」毎週火曜日深夜2:30~3:00(Podcast毎週水曜7:00更新)
TBS「ひるおび!」第3・5水曜11:50~14:00
オフィシャルサイト http://happynote.jp/index.html
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