引っ越し大手のサカイ引越センター(堺市)が不当に賃金を抑える給与制度を採用しているとして、作業員兼ドライバーや元従業員ら計6人が未払い残業代などの支払いを求め、27日にも大阪地裁に第2次提訴をすることが分かった。第1次提訴をした元従業員の原告は東京都内で働いていたが、今回は5府県に拡大した。提訴はさらに広がる可能性がある。(竹谷直子)
原告側によると、サカイの給与制度は基本給が月6万~7万円にとどまり、引っ越し件数などに応じた業績給が多くを占める。サカイは業績給や洗車など車の整備を「出来高払い」扱いにしている。
残業代訴訟の一審の判決文。「出来高払制賃金に該当するとは認められない」と記されている
残業した場合に割り増しして支払われる賃金率は労働基準法により、基本給などが125%以上なのに対し、出来高払いは25%以上と5分の1にとどまる。原告は、業績給などを本来当てはまらない出来高払いにされ、残業代を不当に抑えられたと主張している。
第1次提訴は、東京西支社で勤めていた元作業員兼ドライバー3人が起こし、一審東京地裁立川支部、二審東京高裁ともに、出来高払いに当てはまらないとして、同社に残業代などの支払いを命じた。売上額や引っ越し件数は会社の割り当てなどで決まり、従業員の成果と連動しないためだ。引っ越し業界での出来高払いの不当性を争う訴訟は全国で初めてで、サカイ側は最高裁に上告している。
社員を大切にしてほしいと訴える原告の男性=東京都内で
第2次提訴では、神奈川県や大阪府など5府県の6人が新たに原告となった。5月の東京新聞の報道で、サカイが従業員に対し、独自の精算金の支払いと引き換えに、未払い賃金などの請求権を放棄させる文書を配布していたことも判明。2次提訴では、この文書にサインをしてしまった原告もいるため、合意書の無効も争う。弁護団の小林克信弁護士は「第1次提訴でサカイは東京西支社だけの問題としていたが、サカイ全体の問題であると分かった」との見方を示す。
サカイ広報は「訴状が届いていないため、コメントを控える」とした。
弁護団によると、求人票やホームページの記載内容から、サカイ以外の引っ越し大手で少なくとも2社が出来高払い制賃金を採用している可能性があるという。東京新聞も1社で確認した。小林弁護士は「サカイのような最大手で出来高制の賃金体系が違法となれば、全国的な問題として、ほかも賃金体系を変えざるを得ない。社会的意義の大きい裁判だ」としている。
出来高払い制労働時間ではなく、契約件数や売上高、製造した物の量などに応じた一定の成果に対して定められた金額を支払う賃金制度。営業職やタクシードライバーなどで採用するケースがある。労働基準法の規定で時間外労働の割増賃金率は125%以上だが、出来高払い制では、出来高給与を総労働時間で割った1時間あたりの賃金に、25%を掛けた額が割増賃金となる。出来高払い制の賃金でも労働時間に応じた賃金の保障をしなければならず、最低賃金を下回ることはできない。
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サカイ引越センターの給与制度について、長年働く現職の男性原告は「会社の業績は右肩上がりで、仕事の負担も増えているのに、給料は一向に上がらない」と憤る。繁忙期は残業が月80時間を超えることも。「残業時間が多い人には、本人の許可を得ずに勝手に削っていたこともあった。給与体系が不透明で、現場で不満の声が上がっているが、何も会社は変わらない」と打ち明ける。
夫が同社社員の女性は「繁忙期は家に全然いなくて、子育ても1人で回している。業務量が増えても給料が上がらない」と訴える。
元従業員の山口慈郎さん(39)=川崎市=は、「基本給は6万円で、残業が前提の仕事量にもかかわらず、残業代も1時間700円くらいに低く抑えられていた」と振り返る。「従業員を大切にしている会社とはお世辞にも言えない。(裁判で)会社が従業員にきちんと向き合い、会社が変わるきっかけになれば」と願う。(竹谷直子)
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